ニュートラルに戻るということ

むかしむかし、

といっても、そんなに遠くない“きのう”のこと。

ひとりの人が、

ちょっとだけ前のめりになって歩いていました。

がんばる気持ちが背中を押して、

やさしさが胸の前に出て、

「ちゃんとしなくちゃ」が足を早めて、

気づけば、心の重心がすこし前へ、前へ。

その人は、

ほんの少しだけ疲れてしまいました。

そこで、道ばたの木がそっと声をかけました。

「ねえ、いま、すこしだけ立ち止まってみない」

人は足を止めて、

深呼吸をひとつしました。

するとね、

前に傾いていた心が、

ゆっくりと真ん中に戻っていくような気がしたのです。

木はやさしく笑いました。

「それがね、ニュートラルに戻るってことなんだよ。  

がんばるのをやめるんじゃなくて、  

無理をしている自分をそっとほどくことなんだ。」

人はうなずきました。

肩の力がすこし抜けて、

胸の奥の小さな声が聞こえてきました。

「今日はゆっくりでいいよ」

「そのままで大丈夫だよ」

風がふわりと吹いて、

木の葉がやさしく揺れました。

その風は、

まるで心の真ん中に帰る道を

そっと案内してくれるようでした。

人はまた歩きはじめました。

さっきよりも、すこし軽い足どりで。

重心はちゃんと真ん中に戻っていて、

世界が少しやわらかく見えました。

そして思ったのです。

「ニュートラルに戻るって、  

特別な魔法じゃなくて、  

いつでも帰ってこられる、

 わたしの小さな場所なんだ。」

今日も、

あなたがあなたの真ん中に戻れますように。

やさしい風が、そっと心を撫でてくれますように。